
遊べるシステムトレード
Bの広告は、Aと類似のセットを宣伝していますが、一番上に「初めての投資セット」とあり、リスクのある外貨預金や投資信託にこれまで手を出したことがないけど、興味をもち始めたという人たちにアピールしようとする意図が明らかです。
下半分にある円グラフで示されているように、セットの構成内容もわかりやすく、円預金と外貨預金を同額ずつ組み合わせた「外貨預金お始めセット」と、円預金と投資信託を同額ずつ組み合わせた「投資信託お始めセット」のどちらかを選ぶことになります。
そして、どちらでも「円定期預金の金利が年3%」というオマケがつきます。
もちろん、預金広告の定番である年率表示のトリックが使われていて、「1ヵ月もの」でしかありませんから、満期にもらえるのは元本に対して税引後0.2%(U3%小12×0.8)の利息だけです。
預ける資金の半分に対して0.2%分のオマケがついたとしても、残り半分の外貨預金(あるいは投資信託)に対して、ほぼ確実に1%を超える手数料がかかります。
オーストラリアドルなどの、相対的に為替手数料の高い外貨預金に預けたり、手数料が高いタイプの投資信託を買ってしまったりすれば、1年で5%前後の手数料を取られることもあるでしょう。
ただし、現実に外貨預金や株式投資信託を始めると、運用成果は、為替レートや株価の動きに大きく影響されます。
そのため、為替レートや株価の変動による儲けや損にばかり目がいき、手数料はさほど気にならないという人は、意外にたくさん存在するのです。
そういった人の大半は「きちんと計算するのは嫌いだけど、でも何とかして儲けたい」と考えていたりしますから、元本も金利も確定している円定期預金の金利にはうるさかったりします。
要するに、ぱっと目につく金利や、派手に動く為替レートや株価には注目するけど、細かく計算しないとわからないような手数料は気にしないということです。
このタイプの人は現代の銀行にとっては上客(ネギをしよったカモ)でしょうから、図枢にある2つのセット販売の広告は、カモを選別する効果の高い、よく練られた広告だと思います。
もちろん、だからこそ、賢い客が手を出す商品ではありません。
金融の世界ではセットだから損円預金と外貨預金や投資信託のセット販売が流行する背景には、「大々的に宣伝されているようなセット販売の場合には、たとえば商品Aと商品Bをセットで買うと、商品Aと商品Bを別に買うよりも得なはず」という消費者心理があると思われます。
しかし、金融の世界では、これは正しくないことが多いのです。
金融商品以外のケースとして、ハンバーガーショップのセット販売の例が示してあります。
それぞれ単品で買えば300円のハンバーガーと200円のドリンクが、「バーガー&ドリンクセット」で買うと400円になり、単品での値段を足しあわせた500円と比べて、セットの方が100円安くなっています。
ところが、資産運用商品などの金融商品のセットはそれぞれを単品で買うよりも損な場合も多いのです。
単独の資産運用商品として外貨投資の性格をもつ商品(A)、債券投資の性格をもつ商品(B)の2つがあり、それぞれの手数料は、Aが2000円、Bが1000円であるとしましょう。
そして、AとBを組み合わせた「セット運用商品」の手数料は4500円とします。
AとBのそれぞれの手数料を合計すると3000円なのに、AとBがセットになったときの手数なお、金融の世界のセット商品についてここで述べた内容は、かつて拙著『金融工学の悪魔』でも指摘したものです。
何人もの金融業界関係者がこの本を読んで感想をお寄せくださいました。
その際、かなり批判もされましたが、「金融の世界では、セット商品は単品よりも割高なことがよくある」との指摘については、一度もご批判をいただくことがありませんでした。
金融取引において、セット商品が割高になるのには料は4500円ですから、「セットになることで割高になる」という現象が起きています。
もちろん、この例は、あくまでイメージを表現するためのものです。
とりあえず、ここでの債券とは、金利がもらえる運用商品とします。
Bの商品として、債券の代わりに円の預金を考えてもいいでしょう。
この運用商品B(債券あるいは預金)と、為替レートの変動によって価値が変動する運用商品Aがセットになった、特殊な資産運用商品(A+B)が、日本では過去に何度か流行してきました。
他に、株式投資と債券投資がセットになった資産運用商品が流行したこともあります。
それらのセット商品では、現実に現象が起きていました。
理由があり、それを金融業界の人たちは十分に理解しているからでしょう。
書きましたが、理由のひとつは、「どれとどれの金融取引を組み合わせてセットにするのか」を考え出すこと自体が一種の金融サービスであり、そのサービスの分だけ手数料も上乗せされるということです。
単品の手数料合計の3000円とセットの手数料の4500円の差である1500円は、AとBをセットにするというアイディアに対する手数料と考えられるのです。
もうひとつの、より現実的な理由は、複数の金融取引をセットにすることで取引の内容がわかりにくくなることを利用して、割高な手数料を請求しやすくなる(ぼったくりがやりやすくなる)ということです。
たとえば、Aのセットであれば、金融商品に慣れない客がすべての手数料を把握するのはむずかしく、だから、全体として割高なセットなのに、たくさんの客をひきつけることができるのでしょう。
*もちろん、ふつうのモノの販売でも、客にとって得でないセット販売があります。
たとえば、入手困難な人気ゲームソフトと売れないゲームソフトの抱きあわせ販売″などが、ときどきニュースで報じられます。
なお、悪質な抱きあわせ販売は独占禁止法違反になり、「高金利の円預金と外貨預金や投資信託のセットも抱きあわせ販売の一種だから、違法ではないか?」との意見もありますが、現実には、違法販売との判断はなされていないようです。
また、複雑なセット商品で、実際に手を出した人の多くは「何と何がセットになった商品なのか」をきちんと理解できていなかっただろうと考えられます。
それゆえ、手数料がとても割高だったようです。
冷静な読者の中には、セットであれば、円定期預金の金利が高い(さらに上のAの広告であれば外貨定期預金の金利も高い)分だけ、単品よりセットの方が得だと思った人もいるでしょう。
しかし、資金の配分比率の制約に加えて、円から外貨に両替してから外貨預金を始めなければならないとか、限定された種類の投資信託を買うしかない(流行の投資信託は買えない)などの制限がついている点を忘れてはなりません。
これがもし洋服の販売で、特定のサイズのものしか残っていなかったり、少し流行遅れのものしかないのであれば、定価より値引きして売るのがふつうでしょう。
そもそも、こういったセット販売をする銀行の、外貨預金や投資信託の手数料はかなり高いのです。
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